西東京読書会SF支部 第一回読書会レポート(ネタバレあり) ①本会

 去る10月26日西荻窪のブックカフェにて西東京読書会SF支部第一回読書会が開催されました。参加者の皆様と会場カフェ様のお力で何とか開催にこぎつけ、また楽しい会となりました。途中いろいろな本のご推薦、映画や海外ドラマのお勧めなど話題豊富な会となりせっかくの情報が流れてしまうのが惜しく、不十分ではありますが当日の様子とともに上がった書名などをご覧頂ければと思います。なお、ネタバレありますのでご注意ください。

 

 

 

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 まず幹事より今回の課題本を『ソラリスの陽のもとに』(早川書房)または『ソラリス』(国書刊行会)とした理由について。入手の容易さ、各種ベスト選に入る名著であること、2版が流通しており読み比べの楽しさもあること、映像化もなされておりイメージがつかみやすくSF入門としてふさわしいのではないかなどの理由で選びました。それにしても絶版本の多さに凹みました。

 

 次に参加者の皆さんから自己紹介と本の感想、ご自身のSF体験などをお一人ずつ。何しろ第一回読書会なので他の読書会等で面識のある方々以外は初対面同士ですが、この時点で既に議論温まっておりました。

 

 初読の印象:

「SF=地球外生命体との遭遇/対立/交流etc、というイメージを持っていたので(ソラリスの)哲学的なテーマに驚いた。」「ホラー小説かと思うほど、異常が起きたステーションの描写が怖い。」「地球的・人間的文明の基準を当てはめられない存在としてのソラリス。」「ソラリスは『エデン』『砂漠の惑星』と併せて3部作と言われているが、他2作は一般的なSFでソラリスだけ異色。」「異種生命体とは何かを問う小説。」「SFは読む方だがホラー・閉鎖空間ミステリーとしても読めた。最終的にソラリスが何なのかはあいまいなままだが、最後まで読ませる。SFとしては読み易い方ではないか。」「主人公ケルヴィンとハリーのトラウマストーリー。」「ステーション日記のような淡々とした記録的文章。」「テーマは認識論。ソラリス=他者のわからなさ。シュレーディンガーの猫と同じで、ソラリスは観測者によって異なった認識をされる。それを積み上げていくのがソラリス学。ソラリス=宇宙の未知なるもの=他者=恋人。」

 

ここが良い:

「異世界の異なる数学の下にある生命体とのディスコミュニケーション。でありながら相互理解を試みるところに感動がある。」「情景、光の描写。」「最後のスナウトの決断。スナウトにはスナウトの物語があったはずだと思わせる。」「地球と地球外生命体の関わり方は勝・負ける・交流する、ほぼこの3パターン。4つ目は?というところを描いたのがレムのソラリス。時代性を超越し哲学的にも読め恋愛小説としても読める、それによってオールタイムベストのSF小説なのだろう。」「科学的記述。自分の認識の整合性を実験するところ(早川版p78)。すごく良いシーンだと思う。予想・観察・結果という理系的発想の積み上げとしてのソラリス学が、結局恋人という小さな存在に矮小化されたような感じがしたのは残念。」

 

 

疑問点やこれはどうなの?という部分:

「話がどこへ向かっているのかわからないから読みにくい。」「主人公がソラリスへ向かう動機など、設定がはっきりせず入り込みにくい。」(「映画でははっきり描写があるよ~」との情報も。)「‘ザコパネ’‘ギバリャン’など地名や人名がなじみのない音なので戸惑う。」(ザコパネはポーランド景勝地、ギバリャンは東欧系の人名のようですね。)「主人公が心理学者としたことに必然性はあるのか?」「先にテーマありきの小説で、その後舞台装置を整えたという実験小説的な作りでいまいち入り込めないところがある。」

 

 

恋愛小説として:

「ケルヴィン許せない。」(というご意見複数(>_<)。)「描かれているのはあくまで‘疑似恋愛’で恋愛ではないのでは。」「ケルヴィンが‘ハリー’を愛するようになったのはいつから?」「恋愛小説として読もうとすると‘ソラリス学’の部分に躓いてしまうが、後半のケルヴィンの一人称での語りは読ませる。」「全てがケルヴィンの投影なのだとしたら、ハリーが消えることもケルヴィンの望みなのか?」

 

早川版/国書刊行会版の違い:

両方を読まれた方から「‘ソラリス学’の部分をどう扱うかでかなり違いが出ている。心理描写に焦点を当てるなら早川版、ソラリスという生命体そのものに焦点を当てるなら国書刊行会版。」「国書刊行会版は色彩描写の美しさが感動的。」

 

映画化:

ソダーバーグ版について

→「ソラリスそのものというよりは自己探求と贖罪の物語。」「主題はコミュニケーション/ディスコミュニケーションでは。」「恋愛映画として観た。」

タルコフスキー版について

→「方向性は原作とはある意味反対。だが、あの映画としてしかあり得ない美しさがある。」「ソラリス学、ソラリスそのものにフォーカスしている。」「小説と映画の海の描写の違いに戸惑う。」「タルコフスキーはその後の作品でもソラリス的世界を追求し続けている。」「タルコフスキーノスタルジアに対するソダーバーグの現実との地続き感。」

 

SF小説について:

「ミステリーは焦点を絞っていく小説、SFは広げていく小説。また、SFを読むにはある程度の知識が必要。」「神林長平などは国産SFの中でもレムに近いものを書く作家では。」

「SFにも文学寄りや科学寄りがあるが、ソラリスは文学寄りのSF。」「ソラリスのような思索型SFは初読には少し難しいかもしれない。」「ソラリスは惑星が襲ってくるタイプのSFの一つでもある。科学SFを読むコツは、数式などの部分は飛ばして読んでも大丈夫、ということ。」

 

 

「これ面白かった」「ぜひ読んで」というお勧め:

・『星を継ぐもの』(J・P・ホーガン 東京創元社

・上田早夕里はいい!

・『継ぐのはだれか』(小松左京 ハルキ文庫、または『小松左京コレクション(2)』(ジャストシステム)にも収録。)

・『ブラインド・サイト』上・下(ピーター・ワッツ 東京創元社)テーマにソラリスと通じるものがある。

神林長平の‘戦闘妖精雪風’シリーズ

・『火星の人』(アンディ・ウィアー 早川書房)今年一番読者の反応が熱いSFでは。国内SF人気作家の小川一水さんが推しており、本国アメリカで電子書籍として人気が出て、その後紙媒体へという経緯も興味深い。

・『都市と都市』(チャイナ・ミエヴィル 早川書房)。ミエヴィルは著者近影も必見。

・『百億の昼と千億の夜』(光瀬龍 早川書房)はやはり名作。

伊藤 計劃。『虐殺器官』『ハーモニー』(共に早川書房)。「メタルギア・ソリッド」のノベライズも良い。

・重厚さだけがレムの持ち味ではなく、他の作品にも趣が違って面白いものがある。『捜査』(早川書房)、『枯草熱』(サンリオSF文庫 または スタニスワフ・レムコレクション 国書刊行会)など。

・『地球が淋しいその理由』(六冬和生 早川書房)も今来てる作品。

・『ミレアの島』(柴田勝家 早川書房より11月の刊行予定)、南洋舞台の文化人類学SFという異色。作者が本気で‘柴田勝家’をやっているのもすごい。

小川一水『天冥の標』シリーズ(早川書房)は長編大河の名作。同作者の邪馬台国タイムスリップもの『時砂の王国』(早川書房)、こちらもおすすめ。